N#19 こんなブログはどうだろうと言う試み
- MNOP

- 2021年12月7日
- 読了時間: 5分
変な人ですね…
それが僕を表す言葉として、僕以外の人には適当なのだろうと思う。
–あれは、もう20年も前の話–
肩をトントンと叩かれる。振り向くと、頬に指が刺さる。指が刺さると言うのは、ブスとか、ザクとかではない。ぷにッだ。ぷにッと刺さる。と、笑う声がする。
「何回引っかかるの?」
何回引っかかるも何も、肩をトントンされたら、僕は何回でも振り返るだろう。それが肩をトントンとされる意味なのだから。
「変わってるね、高橋って」
変わっているのは間違いなくそっちだ。
クラスでも話す人もいない、運動もできない、勉強はできそうなだけ。僕に時間を使う人など居ないのだ。いや、居ないはずだった。いや、実際に居なかった…
でも、こうして僕の肩をトントンとし、頬に指をぷにっと刺し、いたずらに笑う。
意味がわからなかった…
肩をトントンすることも
指をぷにっも
いたずらな笑顔も…
全てが僕の中にある行動の選択肢に無いものだから、理解できる、できない以前の問題で、なんなんだこれは…と、ただただ戸惑うことしかできなかったのだ。
「高橋は私だけを好きでいてくれると思ったんだよ…私は卑怯だから。」
後に彼女からこう言われることになる。その結末を僕はまだ知らない。
いつものように肩にトントンと手が触れる
いつものように振り返ると…不意に鈍痛が走る。何が怒ったのか、全くわからないまま、僕は一瞬意識を失った。気がつくと、矢崎珠一がぼやけながら僕の目に写った。
「夕希と関わるな」
夕希…橘夕希。肩トントン指ぷにっの犯人だ。このとき初めて、僕は橘夕希と関わっていることを知った。
翌日もまたいつものように肩をトントンとされる、昨日の手よりも明らかに華奢な手だと言うことが、なんとなくわかる。そして気づく、そんなことにも気づけないぐらい、普通のことになっていたのだ…肩トントンが。
僕が振り返れずにいると、もう一度、肩をトントンとする。振り返ることはできない。少しだけ腫れた右の頬に痛みがくる。
やがて肩をトントンする手は離れ、鼻を啜るような音が聞こえてくる。
いたたまれずに振り向くと、頬にぷにっと指が刺さる。いたずらに笑う声もいつも通り…でも。僕の頬には初めての痛みが走った。
「大丈夫?どうしたの?これ」
痛そうにする僕の顔の腫れを見て、彼女は聞く。
なんでもないと言っても許してもらえない。階段で転んだと言っても、転んでほっぺは腫れないでしょと言われる。ほっぺと言う響きが可愛いなと思いながら、言い訳を探す。けれど…僕の中にふさわしい言い訳の語彙はなかった。
ふと、痛い?と聞かれ、痛いよと返した。
「ごめんね」
…なんで、彼女が謝るのかが全く理解できない。
でも、次に彼女が言った言葉はもっと…僕にとっては特別に理解のできない言葉だった。
「ねぇ髙橋、デート行こ」
でも、もっと理解できなかったのは、その問いかけに僕が反射的に、うん、と返したことだ。僕にとってのそれは、初めてのデートになる。そしてその初めてのデートは、一生忘れることのできない、初めてになるのだった。
デート…調べると、男女が日時を決めて約束して会うこと。と書いてある。なんの参考にもならない。でも調べたことで、今度の土曜日の13時にと約束したことを思い出し。そこに待っているものがデートだと言うことを実感する。
どんな格好で行けばいいのか、どんな話をすれば良いのか、待ち合わせには何分前に行けばいいのか…一睡もできずに朝がきた。
家にいるといろいろ考えてしまうと、8時に家を出た。待ち合わせの場所までは40分ほどだ…電車に乗り、景色が流れるのをぼんやり眺めて、ぼーっとしていたら、降りる駅をすぎていた。
すぐに戻らなきゃ間に合わないわけでも無いから、改札を出てみた。
知らない街…なんだか少しだけ、彼女と会う緊張がほぐれた気がした。きっと、知らない街に降り立った緊張感に持っていかれたのだ。
知らない商店街を歩いて、知らない交差点を渡って、知らないブランコに座ってみたりした。なんだかよかった。何がいいのかはわからないけれど、なんだかよかったのだ。今度は彼女と来てみよう…
一度目のデートすら始まってもいないのに、今度を考えてしまった事が不意に恥ずかしくなり、僕は折り返しの電車に乗った。
目的地に着いたのは11時。
それでも待ち合わせまではまだ2時間もあった。2時間もあるはずなのに…ベンチに座る橘夕希の後ろ姿が目に映った。
その瞬間の自分の行動には今も疑問が残る。
-トントン-
-ぷにっ-
指先に冷たい感覚が走る。
…泣いていた。
「なんでいるの?」
そうきかれ、約束したから…そう答える。
「まだ2時間も前だよ」
こっちのセリフでもある。
こうゆうとき、普通はどうするんだろうか…僕にはいまだにわからない。
わからなかったから、着ていたトレーナーの袖を手に被せて、涙を吸い取ろうとしてみた。
その手を…掴んで、自分の目に押し付けるように握る。
どれぐらいの間だったのだろう。
1分にも感じて、何時間にも感じた。
手を離すと
「私のこと、好き?」
訳のわからない言葉が飛んできた。
うん。と、訳のわからない言葉を返した。
自分が、彼女のことを好きだったことを知った。
「ずっと、好き?」
さらに訳のわからない言葉に
うん。と返した。
そう言ったからには、ずっと好きでいるのだろう。
「私が居なくなっても?」
まだ続く訳のわからない言葉に
訳を理解して…うん。と答えた。
きっと、居なくなっても好きでいるのだろう。
そう、言ったのだから。
1日中いろんなところに行った。知らなかった景色を見た。知らなかった音を聞いた。知らなかった匂いを嗅いだ。知らなかった…顔を見た。
-知らなかった想いを知った-
「高橋は私だけを好きでいてくれると思ったんだよ…私は卑怯だから。」
-それは、もう20年も前の話-
僕は…今もずっと…まんまと、彼女を想い続けている。




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